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東京高等裁判所 昭和35年(ラ)462号 決定 1960年9月24日

抗告人 吉池武男

相手方 大東京信用組合 外一名

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

抗告人は、「原決定を取り消し更に相当の裁判を求める。」旨申し立て、その理由として、別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

本件記録によると、債権者大東京信用組合(旧商号東京畜産信用組合)は、昭和三十三年十月三十一日抵当権実行のため、本件競売の申立をなし、同年十一月四日本件競売手続開始決定がなされ、同年十一月十一日競売申立の登記がなされたが、抗告人は右競売申立登記がなされた後である同年十一月十五日本件競売不動産をその所有者先川原ヒメから買い受け、同年十二月二十六日その所有権取得登記手続を経由した(記録八五丁以下登記簿謄本参照)ことを認めることができる。ところで、競売法による競売で、競売申立の登記がなされた後に、競売の目的である不動産の所有権を取得し、その旨の登記手続を経由したものは、競売法第二七条第三項第四号の「不動産上の権利者」に当り、従つてその権利を証明したときは、右規定により競売手続上の利害関係人として競売手続に参加し、その権利を保護する機会を与えらるべきであると解するのを相当とする。そして、右にいわゆる「その権利を証明する」というのは、自己の権利を証明するとともに、競売裁判所に対してその旨の届出をなすことを要するものと解する。本件においては、抗告人は本件競売申立登記がなされた後、本件競売不動産の所有権を取得し、その旨の登記手続を経由したものであることは、上記認定のとおりであるから、抗告人は本件不動産上の権利者であるといわなければならない。よつて、抗告人が本件で不動産上の権利者として競売裁判所に対しその権利を証明し且つその旨の届出をなしたものかどうかについて考えてみる。

本件において、昭和三十四年十二月一日言い渡された競落許可決定に対し、抗告人が同月八日当裁判所に即時抗告(昭和三十四年(ラ)第九〇二号事件)の申立をなし、右抗告状には、抗告の理由中に、「抗告人は本件物件につき、昭和三十三年十二月二十六日受付第四五九四七号を以て、同年十一月十五日売買を原因として、所有権移転の仮登記(本登記の誤記であることは、記録上明らかである。)を了した。」旨記載されていることは右抗告状の記載に徴して明らかであり、且つ抗告人の右主張事実は、本件記録中の不動産登記簿謄本(記録八五丁ないし八九丁)によつて証明されている。ところで、競売法は不動産上の権利の証明並びに届出の方式に関しては、なんの規定もしていない。抗告状は原裁判所宛ではなく、当裁判所に提出されているが、原裁判所としては抗告棄却の決定がなされて抗告事件の記録が原裁判所に本件記録の一部として返還されたときは、原裁判所としては抗告人の主張を十分予知し得る状態におかれたものと認めるを相当とするから、抗告人は遅くともその際には不動産上の権利者としてその届出をしたものと認めるのを相当とする。

従つて、原裁判所としては、それ以後の本件競売手続については、抗告人は利害関係人として競売期日の通知その他その権利を保護する機会が与えられなければならない。

本件記録によると、右抗告事件で、抗告棄却の決定がなされ本件記録が原裁判所に返還され、原裁判所は本件競売手続を進めたけれども、競落人がその代金を支払わなかつたため、本件不動産について、再競売が行われた結果、本件競落を見るに至つたことを認めることができる。ところが、右再競売手続について、原裁判所が抗告人に対して競売期日の通知をしたことは記録上どこにも見当らない。してみると、右再競売手続は、利害関係人である抗告人に競売期日の通知をしないままなされた違法があるものであるから、本件競落は許されない。従つて、原競落許可決定は失当であるから、これを取り消し、本件を原裁判所へ差し戻すことにして、主文のとおり決定する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

抗告理由書

一、抗告人は本件競売物件につき昭和三十三年十一月十五日売買を原因として所有権移転の本登記を了したものである。

一、抗告人は本件競売に関し、昭和三十四年十二月一日言渡の競落許可決定に対する即時抗告において抗告人が右物件の所有者であることを主張し、これを明らかにしたことは原審記録においても明らかである。

一、競売法第二十七条第三項第二号に規定する所有者とは競売開始申立当時の所有者であるか否かを以つてすべてとなすべきでなく少くも原裁判所において最終の競売期日迄に一連の競売手続段階において記録上当然に発見し、之を知つた所有者をも含むものと解する。

一、昭和三十五年六月十三日なされた競落許可決定にかゝる競売期日においては利害関係人たる抗告人に対しては期日の指定が通知されていない。

よつて、右決定は失当であるので本抗告に及んだ次第である。

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